みおの実小説版〜惚れ薬のレシピ〜

■美人でうさ耳の輝夜さんにぞっこんの小豆洗いが惚れ薬を作って欲しいと頼みます。
むっちゃんが薬材のマンドラゴラを引き抜こうとした時、必死でむっちゃんの耳を押さえたセイメイさん。マンドラゴラは引き抜く時に悲鳴を上げそれを聞いた人は死ぬ? セイメイさんを慕うむっちゃんの気持ち、むっちゃんを思いやるセイメイさんの気持ち。人妻の輝夜さんと小豆洗いはどうなるの?
妖怪専門薬師と弟子の、恋と思いやり溢れるお話です。

みおの実16を小説にしたものに、セイメイさんが洋装する「着せ替えセイメイさん」の書き下ろし付き。

 

 

「着せ替えセイメイさん」 立ち読みできます。よければどうぞ↓

■ 着せ替えセイメイさん


 輝夜さん夫婦が月に帰ってようやく落ち着いた頃は、もう女の子が出歩くには遅すぎる時刻だった。むっちゃんを家まで送るため、久しぶりに降りた街は花火帰りの人間で活気に満ちていた。出店で少し買い物なんかもしてゆっくり十三月館に帰ってきたら、小豆洗いが待っていた。
「…まだ居たんですか?」
「おう。セイメイ、おまえ明日むっちゃんとデートなんじゃろう?」
 いやだなぁもう。聞いてたんですね。
「まあ、はい。ケーキを食べに行くだけですよ」
「おまえは阿呆か! せっかく女子高校生とデートできるというのに! もっとこうガツガツせんかい」
 そんなこと言われても。相手はむっちゃんですよ?
 むっちゃんは純粋でまだなにも汚れてない。お千代さんや人の良いご家族に囲まれて真っ直ぐに育った、本当に綺麗な“気”の優しい女の子。
 いろんな可能性に満ちた若いむっちゃんは、これから人生を謳歌するべき人です。こんな山深くで、不死の呪い付きだった私といつまでも一緒に居て良いわけ無い。
 だから。
 もうそろそろ手放さなければ。これ以上…深入りする前に。

 いつもいつもそう思うのに───。
 前向きでがんばり屋で、表情豊かで、すぐに赤くなって笑うむっちゃん。
 永い間人間と関わってこなかった私の世界を自然に開き、いきいきとした風を吹き入れてくれたむっちゃん。けなげに私を慕ってくれる…そんなむっちゃんが可愛くてならない。
 だからどうしても決心がつかない。
 惚れ薬を使いたい人がいると聞いた時は、目の前が真っ暗になってしまった。あれくらいで狼狽えるなんて、本当にむっちゃんが巣立ってしまったら私はどれだけ苦しむんだろう。


「で。セイメイ、明日はどんな服で行くんじゃ?」
 小豆洗いが話を続ける。
「服?」
「そうじゃ。まさか、そのねずみ色の着物で行くとか言うなよ」
「…ダメなんですか?」
「当たり前じゃ−! これだから世間知らずは」
 う。妖に言われたくない。

「今晩は花火大会じゃったから着物でも目立たんかったろうが、明日そんな着物で女子高生とケーキ屋なんて入ったら、援交丸出しで職質もんじゃろが!」
 職質? ああ、職務質問か。…って、それより!
「援助交際!? 何を言うんですかっ、失礼ですね」
 でもやっぱりそう見えるかなぁ。ちょっとショックだ。
「じゃから、呼んでおいたぞ」
「は? 呼ぶ?」

 その時、軽い羽音を立てて誰かが十三月館に降り立った。
「小豆洗い〜。よく呼んでくれた!」
 スラリと細身のその天狗は山のように衣装ケースを抱えていた。
「小桜さん!?」
 いつも派手な着物でポニーテールの天狗、小桜さん。彼はこの天狗山で、ファッションコーディネーターのような役割を持っている。人間に恋をしたり、また人間社会で働いたり学んだりする妖の為に、TPOに合った服を選んで着せているのだ。
「俺、一度セイメイを着せ替えたかったんだ! こいつ、せっかく顔が良いのに地味〜な着物ばっかり着て歯がゆかったんだよ」
「えええ!? ち、ちょっと、私はいいですってば。薬を届けに山を降りる事だってあるから、スーツくらい持ってますよ!」
 小桜さんは眉間にしわを寄せた。
「スーツって、あのダークグレーのシングルのやつだろ? 一度見た事あるぞ。あんなの着たらまんま援交オヤジだって」
 あああああ。止めて下さい、それ。
 なんかもうショックで力が入らない。このままどんどん老けてしまいそう。

「なーにから着せようかな」
 超ご機嫌に小桜さんが私の着物をはいでいく。
 ああ、もうどうでもいいです。好きにして下さい。


「これ! わしこれがいいなぁ」
「ダメダメそんなの。セイメイは顔立ちが優しいから、ワイルド路線は似合わないって」
 絶対遊んでいるとしか思えないような服を何着も着せられて、やっと二人が許してくれたのはもうすぐ朝になる頃だった。

「おおー! 良いじゃないかセイメイ!」
「ふふん。やっぱり俺の見立ては良いな。似合ってるぜ」
 小豆洗いが調薬室から古い鏡台を引っ張り出してくる。ああ、それ、もうすぐ付喪神になるから入院していた妖なのに。
 鏡台に映っていたのは……。
「ほれ。早う“こ、これが私っ”と言わんかい」
「なんか………ミュージシャン崩れみたいです」
 皮のスリムパンツは脚にまとわりつくし、ネクタイだって苦しい。体を締め付ける現代の服って、あんまり好きじゃないんだけどなぁ。
 でも、小桜さんは私を見て満足そうに笑った。
「いいぞ、セイメイ。二百歳は若く見える」
 うーん。喜んで良いところですよね?
 小豆洗いまでが私の姿を褒めてくれる。
「本当に馬子にも衣装じゃ。これならむっちゃんも喜ぶぞ。昨日、周りの友達をうらやましがっていたからなぁ。むっちゃんには世話になっとるじゃろう。ちゃんと喜ばせてやれよ」
 そうか、むっちゃんが。
「…はい」
「それから、デートはまずむっちゃんに服を買ってやるとこから始めろよ。制服のまま歩かせたら絶対職質じゃぞ」
 小豆洗いったら…。顔に似合わずいろいろ考えてくれてたんですね。ありがとう。

「それなら、髪型も変えようぜ!」
 小桜さんが櫛やハサミを取り出した。
「ち、ちょっと、切るのはいやですよ」
「大丈夫。少しすいて高いところで結うだけだから。そんな伸ばし放題、全然今風じゃないからな」
「むっちゃんの為じゃぞ〜」
 小豆洗いが楽しそうに私を見た。


 ようやく帰ってくれた二人の後片付けをしてから、再び鏡台を覗いた。
 うん。いつもより若々しい感じがする。さすが小桜さんだなぁ。

 これなら…少しはむっちゃんにつり合うかな。

 いつかは自分の道を行くむっちゃん。
 だからそれまでもう少し。もう少しだけ、むっちゃんと一緒に居られるこの時間を大切に楽しんでいこう。

 私からは絶対言わないけれど。
 私も好きですよ。むっちゃん。


―了―

 

 

 

お取り扱い電子書籍店一例どこでも読書 Amazon  エルパカBOOKS  ぱぴれす 楽天ダウンロード PDABOOK他お好みの電子書籍店で「つやつやみお」や作品名で検索して下さい。


かなめみおホームへ

みおの実のページへ

●お申し込みや感想等は、ブログやmixi、pixiv、メール でね〜。

 kanamemio.higuti☆nifty.ne.jp (アドレスの☆を@に直して下さい) お気軽に!